ポータブル電源と
車載コンセントの組み合わせ
災害時の対応として自宅待機を第一選択とする場合、医療機器の電源確保を優先して考えますが、加えて問題となるのが室温です。地域によって対応は変わると思いますが、夏や冬の普段の室温管理にはエアコンを使うのが一般的ではないでしょうか?
今回は災害時に自宅待機を選択し、停電状態となってしまうことを想定し、エアコンを使うことが出来るか検討してみました。
電源確保の手段
停電時の電源確保法方法の一例として以下が考えられます。
家の太陽光発電、蓄電システム
発電機
電気自動車(EV)からの給電
それぞれ導入に際しての問題点もあります。
- 太陽光発電、蓄電システムはそもそも導入するのが難しい。
- 発電機は定期的にメンテナンスが必要。
- EVは充電ステーションが少ない地域では、普段使いに支障が出る。
- 導入コストが高くなる。
- 普段使わないもの、実用性がないものを用意するのは無駄が多い。
特に問題なのはコストと実用性だと思います。
災害に備えて新しく導入する以上はある程度コストはかかってしまいますが、出来るだけコストを抑え、無駄は生じにくくしたいですね。
そこで実用性の高い選択肢として以下を考えてみます。
- エアコンを稼働可能な出力を持つポータブル電源を利用する。
- 災害時には近隣の病院・避難所・建設会社など充電可能な施設で充電を行う。
- 車の買い替え時には車載コンセント付きのハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)を導入し、ポータブル電源の充電に利用する。
- ポータブル電源の充電時間が、ポータブル電源によるエアコンの稼働時間より短ければ、複数のポータブル電源を用意することで長時間稼働することが可能。

この場合、ガソリン車を購入する場合に比べて車の購入コストはかかりますが、太陽光発電と蓄電システムを導入するほどではありません。
また、車の利用においてはEVほど普段の利便性を損なうこともありません。
今回はこの構成で実際の使用に耐え得るか、以下の3項目で実験を行います。
- 実験に使用するポータブル電源の電気容量の確認
- 車載コンセントによるポータブル電源の充電時間の測定
- ポータブル電源を使用したエアコンの稼働時間の測定
実験1 1500W以上出力可能なポータブル電源の電気容量
今回の実験では6畳用100V電源のルームエアコンを稼働させることを想定しています。
そのためAC100V 1500W以上出力可能な機種を選定しました。
今回の実験で用意したDELTA2 MAXはAC100V 2000Wまで出力可能な機種となっており、電気容量はカタログスペックで2048Whです。
実験は以下の方法で行いました。

- ポータブル電源を満充電の状態にする。
- ポータブル電源に600W相当の白熱電球を接続し、電流ロガーで電気の供給時間を測定する
- 電流ロガーで記録した電気の供給時間から、ポータブル電源の電気容量を計算する。
測定に使用した電流ロガーは「KYORITSU KEW5010」「KYORITSU KEW8146」です。
測定結果をグラフにしたものが以下です。
電気供給時間192分、平均消費電力588.5W、算出電気容量1883Whとなりました。

電流ロガーでは電流(A)で記録されるので、100Vをかけて電力(W)を算出しています。
DELTA2 MAXのカタログスペックは2048Whですので、今回実験で使用したものは91%以上の容量を維持している状態です。
このポータブル電源を使って他の実験を行います。
実験2 車載コンセントによるポータブル電源の充電時間
HV、PHVには車載コンセントがオプションに用意されているモデルもあります。
例 TOYOTA公式サイト トヨタの給電 2024-12-17参照

詳しい車載コンセントの搭載情報は各メーカーのWEBサイトをご確認ください。
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トヨタ 非常時給電システム付アクセサリーコンセント
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非常時給電システム
今回はAC100V 1500W 出力可能な非常時給電システム付アクセサリーコンセントを搭載した、2021年製 トヨタ RAV4 ハイブリッドでポータブル電源を充電してみます。
その他条件は以下です。
- ポータブル電源を0%まで消費する
- ガソリン満タン状態でRAV4の非常時給電システムを起動させ、ポータブル電源を充電する
- 電流ロガーで満充電までの時間を測定する
- 最寄りのガソリンスタンドで満タンまで給油を行い、給油量で消費したガソリン量を計算する(満タン法)
- 商用交流100V(家庭用コンセント)で充電した場合と比較する
RAV4の非常時給電システムでの充電結果は以下となりました。
充電時間は108分、満タン法で計算すると消費したガソリン量は1.09Lでした。
非常時給電システムは通常のアイドリングと異なり、エンジンは間欠的に稼働していました。
これによりアイドリング時のような継続した騒音はなく、低燃費のようです。

商用交流による充電結果は以下となっています。
充電時間は110分でした。

商用交流と同様に1500Wまで供給可能なため、変わらない充電時間となりました。
実験3 ポータブル電源を用いたエアコンの稼働時間
実験1で電気容量を確認したポータブル電源を使って、6畳用ルームエアコンを稼働させてみます。
ルームエアコンの仕様は以下です。

※機器取扱説明書より抜粋
エアコンの設置場所、実験方法は以下です。
- 測定日は冬期。エアコンの設置場所は木造3階建て戸建ての2階、6畳の部屋
- エアコンをポータブル電源に接続し、電流ロガーで電流と供給時間を測定する
- 測定はa.昼から夜とb.朝から昼の2パターンで行う
- a.昼から夜の測定では、外気温は4~8℃、エアコンの設定は暖房運転、20℃、風量自動
- b.朝から昼の測定では、外気温は4℃、エアコンの設定は暖房運転、24℃、風量自動
- 測定前には1時間以上の換気を行う
b.朝から昼の測定では、より電力を消費するように、a.昼から夜の測定に比べて設定温度を高くしています。
また、測定した電流(A)に100Vをかけ、電力(W)表記でグラフにしています。
a.昼から夜の測定結果のグラフは以下です。
供給可能時間は6時間58分でした。

b.朝から昼の測定結果のグラフは以下です。
供給可能時間は3時間36分でした。
外気温が低く、エアコンの設定温度も高くしたため供給時間は相応に短くなっています。

まとめ
出力と電気容量が十分にあるポータブル電源を用意することで、ルームエアコンを稼働させることは可能でした。
HVの車載コンセントによる充電も問題なく、今回の実験条件ではエアコンの稼働時間よりも短い時間で充電可能で、複数のポータブル電源を用意すれば、継続的にエアコンを利用することも理論上は可能です。
参考ではありますが、今回の実験に使用したRAV4の燃料タンク容量はカタログスペックで55Lです。
これをすべて今回のポータブル電源の充電に使用できたとすると、約50回の充電が可能となります。
エアコンの稼働時間を3.5時間で計算すると、175時間=7.2日分の電気容量となります。
非常時にHV・PHVを発電機の代わりにすることができれば、発電機を単体で用意するのに比べて、保管や日々のメンテナンスの負担を軽減できるのではないでしょうか?