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在宅医療用人工呼吸器の
各種結露対策の比較

断熱材の効果はどれくらい?


在宅医療で人工呼吸器を用いる場合の加温加湿管理について考えてみます。
人工呼吸器使用者にとって加湿は十分に必要であり、介護者にとっても喀痰の吸引管理などで重要です。その半面、結露が発生すると呼吸への影響や、介護者の管理面での負担が大きくなります。
十分な加湿を行いつつ結露を防ぐための対策として、加熱機能のある回路を使用する、回路に断熱材を装着するなどがあります。
今回は結露対策としての断熱材に注目し、保温効果を比較しました。

 

 

  1. 条件
  2. 結果
  3. まとめ

条件

断熱材の効果を比較するため、以下の条件で人工呼吸器回路内の温度・湿度を測定しました。

 

  1. リークポート回路の場合、リーク量による影響が不明のため、回路は呼気弁回路を使用する。
  2. 加温加湿器出口、口元の2点で回路内の温度と相対湿度を測定する。
  3. 電源オンから30分間の余熱時間を設け、安定後に30分間の測定を行った。
  4. 測定された温度、相対湿度、Wagner式から絶対湿度の近似値を算出し、平均値を比較する。
  5. 測定後、温度湿度センサは送風乾燥する。

以上を各種回路・断熱材の組み合わせで行い、加温加湿への影響を比較しました。

実験回路上の限界として、比較のために呼気弁とテスト肺の間に口元側センサーを設置したため、テスト肺の呼気との混合気が測定されることになります。

 

対象の人工呼吸器、加温加湿器は以下です。


TrilogyEvo

 


MR810

 

対象の回路は以下です。


インターサージカル呼吸回路
HWあり 160cm

 


インターサージカル呼吸回路
HWなし ウォータートラップ+160cm

 


EHW呼吸回路
スリーブなし 160cm

 

※全て成人用回路
HW:ヒーターワイヤ
EHW:エンベットヒーターワイヤ

 

比較する断熱材は以下です。


100円均一購入保温アルミシート

 


梱包用プチプチ

 


水道配管用断熱材

 


サランラップ

 


回路保温用市販品A
価格帯8000~10000円

 

 

シート状の断熱材は幅30mm、長さは人工呼吸器回路に合わせて切断、筒状の断熱材は人工呼吸器回路の長さで切断しました。

 

各断熱材装着例は以下です。
回路例:インターサージカル HWなし+ウォータートラップ


100円均一購入保温アルミシート

 


梱包用プチプチ

 


水道配管用断熱材

 


サランラップ

 

 

その他使用機器、各種設定は以下です。

温湿度ロガー HIOKI LR8514
温湿度センサ HIOKI Z2011
測定間隔 500ms
室温 25℃
湿度 55%
呼吸器設定 1Lテスト肺
回路設定: AcitivePAP
モード: A/C-VC
一回換気量: 500mL
PEEP: 5hPa
呼吸回数: 15回
分時換気量: 7.5L/min
吸気時間: 1.5秒
トリガー: オフ
フローパターン: スクエア
加温加湿器設定 MR810: Lv3

結果

各種断熱材の結果は以下です。
各項目での灰色背景は断熱材なし断熱材使用群での最大値は赤断熱材使用群での最小値は青です。

「出口-口元温度差」において、断熱材なしの状態からの変化量が断熱材の保温効果と言えます。これを「出口-口元 保温効果」としています

 

MR810 インターサージカルHWなし

 

 

以上の結果から、以降は断熱効果の高いもの3種(市販品、アルミシート、配管用断熱材)について比較しました。

 

MR810 インターサージカルHWあり

 

 

MR810 EHW呼吸回路

 

 

安定したデータを得るために呼気弁を使いましたが、リークポートでも参考実験を行いました。

MR810 リークポート インターサージカルHWあり, EHW呼吸回路

 

まとめ

断熱材単体の保温効果

 

断熱効果の高いものから、専用の市販品100円均一購入保温アルミシート配管用断熱材の3種になりました。

各断熱材の所感は以下です。

市販品A

専用の市販品は安定して効果が高く、呼吸器回路への固定構造も有しています。装着は最も簡単でした。
価格帯は8000円から10000円となります。

100円均一購入


保温アルミシート

専用の市販品に次いで効果が高かったです。回路への固定方法を用意する必要があります。
今回は面ファスナーを使用しました。

配管用断熱材

円筒状で回路に巻きやすいですが、固定方法は別途必要となります。
また、弾性が強いため回路の自由度が制限されます。

梱包用プチプチ、サランラップは空気層による保温を期待しましたが、効果は小さかったです。

入手性や費用対効果、汚れた際の交換の容易さを考えると、断熱材として用いるなら保温アルミシートが有効かと思います。

 

 

断熱材の装着した呼吸器回路

 

加温加湿性能としては、熱線なし回路に断熱材を使用するのが加温加湿能力が高いという結果になっています。ただし、結露の量は多い傾向となります。落差を十分に付けるなどの工夫が必要です。

加温加湿器MR810はHWの有無で動作が変わります。HWなしでは加温加湿チャンバーの温度は高く、HWありでは温度は低くなります。結露が問題なければ、MR810 HWなし回路を断熱効果の高いもので保温することが最も加温加湿能力が高くなります。

 

HWあり回路、EHW呼吸器回路では口元での相対湿度が低下していました。流入する気体による湿潤への影響を考えると注意が必要かもしれません。絶対湿度は断熱材を使用することで増加しています。

 

 

リークポート付き回路と断熱材の保温効果

 

呼気弁付き回路と比較して、断熱材での保温効果は小さくなりました。回路を通過する気体の量が多く冷えやすいことが考えられます。

 

 

加温加湿を最優先とするなら

 

実験の結果から加温加湿を最優先とするなら、

  1. 加温加湿器にMR810を使用する場合は、HWなし回路を断熱効果の高いもので保温する。

といえそうです。

 

いずれにしても十分な結露対策が必要です。

 

 

※実験の制限として室温、テスト肺での測定なので、加湿を受ける側の温度は再現できていません。そのため、値の差がどの程度の影響を与えるかはわかりません。